素材 — 組成、製造工程、そして触感
材料工学の専門家として、私は時計業界が「革命的」という言葉をあまりにも安易に使いすぎていると感じることが多々あります。しかし、クオーツTPT(Thin Ply Technology)は、その誇張が正当化される数少ない例の一つです。Richard Milleとスイスの専門企業North Thin Ply Technology(NTPT)の共同開発によって誕生したクオーツTPTは、金属でもなければ、従来のセラミックでもありません。これは、数百層にも及ぶシリカ(石英)ファイバーの層で構成された高性能複合素材です。
その製造工程は、精密工学のマスタークラスと言えるでしょう。まず、シリカの糸を生成し、それらを平行な層に整列させることから始まります。これらの層は驚くほど薄く、通常は30ミクロン(0.03mm)以下の厚さしかありません。これらの「プライ(層)」に特殊な樹脂(多くの場合、高安定性のエポキシ樹脂)を浸透させ、自動積層システムを用いて積み重ねていきます。TPTをユニークにしているのは、これらの層の向きです。各層は、その下の層に対して45度の角度で回転させて重ねられます。このクロスハッチ構造により、あらゆる方向に対して卓越した強度を発揮する等方性構造が生まれます。
積み重ねられた素材の「ブロック」はオートクレーブ(加圧釜)に入れられ、6バールの圧力をかけながら120℃まで加熱されます。これにより樹脂が硬化し、各層が融合して強固な塊となります。こうして出来上がった素材を、CNCマシンで時計のケースへと削り出します。切削工程で層を様々な角度からカットするため、ダマスカス鋼や木目のような、独特のうねるような模様が現れます。触感において、クオーツTPTは他のどの素材とも異なります。チタンよりも大幅に軽く、肌に触れたときには「温かみ」があり、スチールやゴールドのような冷たく無機質な感覚がありません。また、化学的に不活性で低刺激性であり、紫外線に対しても高い耐性を備えています。
時計製造における歴史 — パイオニアたち
クオーツTPTの歴史は、Richard Milleと密接に結びついています。NTPTは以前、高性能レーシングヨット(特にAlinghiチーム)の帆やF1のシャシーに使用するためにカーボンTPTを開発していましたが、クオーツTPTへの移行は、色彩と透明性を求めたRichard Milleの情熱によって推進されました。カーボンTPTは本質的に黒色ですが、シリカファイバーは鮮やかな色彩のスペクトルで染色することが可能です。
この素材は2015年、RM 27-02 Tourbillon Rafael Nadalの発表とともに華々しいデビューを飾りました。これは業界にとって画期的な瞬間でした。初めて時計のケースが、プロテニスの試合中の激しい衝撃に耐えられるよう設計された、ホワイトのクオーツTPTとカーボンTPTの「ユニボディ」地板で構築されたのです。それ以来、Richard Milleはこの素材の主要な守護者であり続けていますが、この技術は先端複合素材に対する業界全体の関心にも影響を与えました。Girard-PerregauxやPaneraiといったブランドも同様のカーボン複合素材を試みていますが、特定の「クオーツ」バリエーションは、レ・ブルルーを拠点とするこのマニュファクチュールの代名詞であり続けています。
ブランドが採用する理由 — 象徴性と機械的特性
工学的な観点から、クオーツTPTを採用する最大の理由は、その比強度(重量に対する強度)にあります。複雑時計の世界において、重量は装着感の敵です。クオーツTPTを使用したRM 67-02のような時計は、ストラップを含めてわずか32グラムしかありません。これにより、時計は手首にかかる振り子ではなく、アスリートの身体の延長線上にある存在となります。
しかし、コレクターの視点から見ると、クオーツTPTは全く別の何か、すなわち技術的優位性と独占性を象徴しています。これは、ゴールドやプラチナのような固有の価値に頼らない「ステルス・ウェルス(隠れた富)」を体現する素材です。その価値は、製造の困難さに裏打ちされています。クオーツTPTの加工は工具に極めて大きな負担をかけます。シリカファイバーは研磨性が非常に高く、頻繁に交換が必要なダイヤモンドチップのCNCビットを必要とします。この素材を使用することは、特定の美学とパフォーマンスを実現するために、ブランドが極端な製造コストを厭わない姿勢を示しているのです。さらに、模様の出方が「ランダム」であるため、同じクオーツTPTの時計は二つとして存在せず、伝統的な金属では到達できないビスポークのような唯一無二性を提供します。
この素材を用いた代表的なリファレンス
クオーツTPT時代のアイコンとなり、二次流通市場で驚異的な価格を維持しているリファレンスがいくつかあります。
- RM 27-02 Rafael Nadal: この素材の先駆者。ホワイトのクオーツTPTケースに、カーボン製の地板が露出しています。当時の定価は約$775,000でしたが、現在は$1,200,000から$1,500,000の間で取引されています。
- RM 35-02 Rafael Nadal: おそらく最も知名度が高く、鮮やかなレッドのクオーツTPTでよく見られます。このリファレンスは、ナダル・ラインに自動巻きムーブメントを導入しました。現在の市場価格は、カラーによって$450,000から$550,000前後で推移しています。
- RM 11-03 Jean Todt 50th Anniversary: 印象的なブルーのクオーツTPTで製造されたこのフライバック・クロノグラフは、F1ファンの間で絶大な人気を誇ります。現在は$600,000を超える価格で取引されています。
- RM 65-01 Automatic Split-Seconds Chronograph: グレーやイエローのクオーツTPTで見られることが多く、Richard MilleがTPTケースに収めた中で最も複雑なムーブメントの一つです。価格帯は$380,000から$450,000です。
この素材におけるオークション記録
クオーツTPTウォッチのオークションでの実績は、それがブルーチップ(優良資産)としての地位を確立していることを裏付けています。特に顕著な結果は、「ビッグ3」オークションハウスで記録されています。
- Phillips (ジュネーブ、2020年11月): RM 27-02 Rafael Nadal (Lot 18) が CHF 1,301,000 で落札されました。これは、クオーツTPTが伝統的な貴金属と同等、あるいはそれ以上の価値を維持できることを証明した記念碑的な落札でした。
- Christie’s (香港、2021年5月): ブルーのクオーツTPTを採用した RM 11-03 Jean Todt 50th Anniversary (Lot 2516) が HKD 4,375,000 (約$560,000) を記録しました。
- Sotheby’s (香港、2020年10月): ナダル本人が着用した RM 27-02 のプロトタイプは、プライベート・トリーティ(相対取引)の交渉で HKD 10,000,000以上 に達しましたが、標準生産モデルの公開出品でも一貫して$1.1Mから$1.3Mの間で落札されています。
- Antiquorum (モナコ、2022年7月): レッドのクオーツTPTを採用した RM 35-02 が €462,500 で落札され、不安定な市場環境下でもこの素材に対する需要が持続していることを示しました。
コレクターにとってのメリットとデメリット
メリット:
1. 不朽の耐久性: 事実上、傷がつきません。デスクワークで小傷がつくゴールドとは異なり、クオーツTPTは何十年経っても新品のような外観を保ちます。
2. 軽量性: 装着感は比類なきものです。50mmという巨大な時計を無重力のように感じさせることができる唯一の素材です。
3. 視覚的アイデンティティ: クオーツ層の縞模様は、ハイエンド・コレクター同士の「合言葉」のようなものです。部屋の端からでも即座にそれと分かります。
デメリット:
1. メンテナンス性: クオーツTPTを「研磨」することはできません。万が一、ケースに深い傷をつけてしまった場合(困難ではありますが可能です)、ケースパーツ全体を多額の費用をかけて交換する必要があります。
2. 好みの分かれる美学: 知識のない人には、その鮮やかな色とマットな質感から、プラスチックや「おもちゃ」のように見えることがあります。
3. 価格のハードル: クオーツTPTの参入価格は非常に高く、中古の RM 67-02 モデルでも通常$200,000以上からとなります。
結論 — どのような人が購入すべきか?
クオーツTPTは、「ニューガード(新世代)」のコレクター、つまり19世紀の時計製造の古びた伝統よりも、工学、材料科学、そしてアヴァンギャルドな美学を重視する個人にとって究極の素材です。ゴルフやテニスを楽しみながら、100万ドルのトゥールビヨンを身に着けたいと願うアクティブな方にとって、これに代わるものはありません。衝撃を吸収し、過酷な環境に耐えるこの素材の能力は、客観的に見て金属よりも優れています。
しかし、もしあなたが高級時計には「重厚感」が必要だと信じる純粋主義者であったり、ゴールドやブロンズのケースに刻まれる経年変化(パティナ)を愛する方であれば、クオーツTPTはおそらく期待外れに終わるでしょう。これは21世紀のために設計された、臨床的で高性能な素材です。古びることも、錆びることもなく、その主張の強いテクニカルな外観に妥協もありません。エンジニア気質のコレクターにとって、これは時計製造が過去を振り返るのをやめ、航空宇宙研究所に目を向けたときに何が起こるかを示す、最高到達点なのです。